「了解しました」「ご苦労様でした」

最初に会社で「承知しました」を聞いたのは、せいぜい10年前。
社内の人からメールで依頼を受けたときに、あたしとコンビを組んでた派遣社員さんがこう返信してた。

いや、社内の人宛てに、そんなにかしこまらなくても。
と思ってちょっとびっくりした。あたしなら「了解です」って書くな。
それまで、社外の人と接する仕事をしていないせいもあって、「承知しました」はあたしは一度も使ったことがなかった。
たぶん、あたしの周りでも使っている人はいなかったと思う。

でも、その後「敬語の使い方」みたいな本をいろいろ読んでたら、どの本にも出てくるのね。
目上の人に「了解しました」と言うのは失礼なんだそうだ。知らなかった。

その派遣社員さんは元SEなのに、普段から言葉遣いが美しくて、敬語を間違ったことなんかなかった。
それからは気を付けるようにはしていた。
その後、5年ほど前に別の人とコンビを組むようになったんだけどね。
その人は、超絶意味が解読できないメールしか書けず、会話さえお互い伝わらずみんなが困っていたの。
でも、その人でさえ、依頼にはちゃんと「承知しました」って答えてた。
あたしだけが知らない、常識だったんだなー。

メールというものが普及してから。
冒頭の挨拶、社内なら「お疲れ様です」で始めるのが通例だね。
これもね、昭和の、メールがなかった時代は社内の挨拶は「おはようございます」「こんにちは」だったんだよ。
「お疲れさまでした」は、業務が終わって帰るときだけ。

朝一番に会ったときの挨拶に「お疲れ様です」って初めて言われたのは、バブル期ぐらいだったかなあ。
「24時間戦えますか」なんて強壮ドリンク剤のＣＭが大流行した頃かも。

とにかく驚いた。朝から、疲れてねーよ。
っていうか、朝から終業の挨拶されたらそのまま帰りたくなるじゃんか。

昼ならね、まだ気持ちはわかる。
「こんにちは」って、「です」も「ます」も付いてないから敬意を込めることができない。
午前中ちょっとは仕事したわけで、中には疲れちゃった人もいるかもしれない。

でもあたしは、そんな疲れるほど大した仕事はしておりません。という気持ちで、意地で「こんにちは」って言ってたよ。
ギョーカイなら昼でも夜でも「おはようございます」とか言うらしいけど、ウチの会社でそれやったら指さして笑われる。
言い間違えちゃった人が、「ギョーカイかよ」ってほんとに笑われてた。

また、業務後退社するときには「お先に失礼します」と言って、まだ残っている人は「お疲れ様」、上司なら「ご苦労様」と返してたの。
上司じゃないのに「ご苦労さま」と言ってはいけないのは、当時（バブル前）から常識だった。

でもねー、「ご苦労さまでした」も、あたしが小学生の時は目下向け専用じゃなかったんだよ。
授業が全部終わると、班に分かれて教室やトイレなど分担して掃除したよね。
掃除終了の音楽が校内放送で流れたら、班ごとに一列に並んで。
班長さんが前に立って「ご苦労さまでした」と言ったら班員も「ご苦労さまでした」と返す。
っていう決まりだった。

いつから、「ご苦労さま」は侮蔑になったんだ？
あたしが退職する直前、別の部署の部長さんからいただくメールが、必ず「ご苦労さまです」から始まってたの。
相手があたしのときだけじゃないよ。複数相手で、それが誰であれ絶対変わらない。

あたしは「ご苦労さま」は仲間内で使うのに慣れてるから何とも思わないけど。
これを読んだあたしの上司は「ちょっとこれ、どうかと思うね」って言ってたわ。
ま、確かに、珍しいですわ。

しかし。先に退社する人が「お先に失礼します」を言わなくなった。
自分で「お疲れ様」とつぶやいて帰る。

こっちのほうが、あたしは引っかかる。
朝でも昼でも帰りでも、とにかく「おつかれさま」しか使わない。

みんなで共同作業してた仕事が終わったのなら、1分だけ先に出る人が言うのは問題ないと思うけど。
あたし一人で、意地になって「お先に失礼します」を言って帰る。

今ごろ、元の職場であたしのことを思い出す人がもしいたら「お先に失礼しますおばさん」とか呼んでるのかもしれない。

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