家の中が豪邸だった

交流、交際

その日、あたしは招かれざる客だった。

招かれたのは、市民オケの仲間夫妻。
その二人を招いたのは、同じオケの夫妻。

二人だけじゃなく、誰かもっと呼んでいいと言われたらしく、仲良しであるあたしも誘ってもらったの。

えー、なんでだろ。
招いてくださったのはね、コントラバス奏者の夫にフルート奏者の妻。

フルート妻に、「準備とか大変じゃないですか」と事前に聞いたとき話してくれたのは
以前、何度も来てくれてた指揮者がコントラバス夫に「お宅に行ってみたい」と言われたそうで。
お一人よりは、団員がもっといてくれた方がいいので、団長やコンマスにも来て貰ったんだって。

どうも、ホームパーティがお好きみたいね。
仲良し夫妻にそう言ったら、彼らもやっと納得したみたいだったよ。

おうちが駅からどれぐらい離れているんだろうと、Googleマップを見たのよ。
地図だけじゃなく外観写真も、そりゃあ見るわよね。
仲良しツマも見たって。
でも、現地に着いたらGoogleの示す写真の、隣の家だった。
あ、あら?思ったより小さい?

どうぞー、こちらです。とフルート妻が案内してくれて、階段を。
降りたから、びっくりした。え、地下なの?

らせん階段をぐるっと回って地下に着いたらいきなり、グランドピアノですよ!
もうそこであたしは膠着状態。い、いいなー。
これなら夜中でも練習できるじゃん。

しかし広めの地下室、ものだらけ。
巨大スクリーンにはすでにオーケストラの写真が映し出されてる。
オープンリールなどの機材に、LPレコードや楽譜の棚だらけ、そのすきまの壁には、いや、すきまはすべて写真で埋め尽くされてる。
その写真がさー、ほとんどご夫婦とどなたかの三人なんだけどね、全部、小澤征爾とか、そのほかアメリカで活躍された大指揮者ばっかりなの。
信じられないようなすごい人ばかりで、名前が思い出せないのが残念。

木製の立派な譜面台があちこち、使ってないだろうというところに押し込まれてるのもある。。
コントラバスは2台もある。さらに隅に、馬頭琴まであるよ!ぎゃー。
馬頭琴て知ってる?モンゴルの民族楽器、バンジョーみたいな胴体は四角形で、指板の一番先が馬の頭の形になってるんだよね。


スピーカーも、かなり大きい。高さ60センチぐらいありそう。
ところが、ここにコンマスが来たとき「この部屋にはもっとグレードの高いのでなきゃ」と言って、タンノイの型番いくつ、とか教えられたそうだ。
えー、コンマスって確か貧乏育ちで、職業も地方公務員で、そんないい暮らししてるとは思ってなかったわ。

大きな気球に乗っている写真もあったよ。
カッパドキアって、気球が有名なの?ガイドさんが、長-い自撮り棒で空飛ぶ気球を撮影してくれるんだって。
ひとつの気球に何十人も乗れるんだね。

偶然だけど、こないだから熱気球に乗ってみたいと思ってたところなんだよ。
関東でも乗せてくれるところはいろいろ見つかったけど、問題は一緒に行く人がいない。
妹は高いところがダメだからね。
そしたら、仲良しツマが「乗ってみたい」ってため息まじりに言うから、「あたしもー!!」と叫んだ。
いや、一緒に行こうとまでは言えなかったけどさ。

たぶん、お子さんはいないみたいね。
いたら写真があるはずでしょ。
お二人で、世界中旅行しまくってるのがよくわかった。

コントラバスさんはアマチュアだけど、どこか別の楽団にも属してて、上海だっけな、中国のどこかに演奏旅行に行ったんだって。
プログラムは「新世界より」と「メンデルスゾーンバイオリン協奏曲」、ソリストは大谷康子さん。
「ところが現地に着いたら、シンバルだけ無くなってた」

え、新世界のシンバルといえば。
たった1回、そーーっと「シャーン・・・」と弱音で叩くのが有名なアレだよ。
あたしブログでもネタに使ったことがあるから、よかったらこちらへ。

もう、すぐに本番。どうしようもない。
なにか、代用できるようなものあるだろうか。
たまたま、誰かがお土産用に中国の「銅鑼」を買った人がいたんだってさ。
普通のオケで使うのは、直径50センチはあるようなデカいのだけど、お土産用のは15センチぐらいか。
「おっぱいみたい」と彼は形容していたが、湾曲しているんだそうだ。

第4楽章、ファゴット二人が「ふぉふぉふぉふぉ~」と出る直前に、「シャーン」と鳴るはずが
「こわん。」と、ひしゃげた音が鳴り。

コントラバスさんが口真似しただけだけど、その音が想像できてあたしは大爆笑が止まらなかったよ。
なのに、あたし以外誰も笑わないの、なんで?よく笑わないでいられるね。
あたしがヒーヒー言いながら涙をふいたら仲良しツマが「泣かないで」と慰めてくれたよ・・・

部屋は、地下室なのに天井が高いの。
見上げたら、照明にプロペラみたいな羽根が付いてる。
これが、夏と冬で反対回りに変えなきゃいけないんだってね。
そのために、部屋には不釣り合いな長い長い脚立も置いてある。
一年に2回だけ使う。
最初はここまで天井は高くなかったのだけど、半地下の崖のお隣にも家が建つときか、1メートル掘り下げなきゃいけなくなり。
それで、密室感のない、ゆったりした空間になってるのねえ。

お料理は、フルート奥様から前もって聞いてたよ。「パエリアを作ります」って。
え、パエリアってフライパン2個ぐらい使うの?「いえ、ホットプレートです」
ダンナ様が嫌いなのでサフランは使わず、代わりにしょうゆを使うのがポイントだと。

炊き上がりは、ダンナ様がプレートに耳を澄まして確認してたよ。
お米の声でわかるんだそうだ。
「まだ。」「そろそろいいか」とフタをあけたら、エビや帆立貝柱がたっぷり。
なのにその上さらに、奥様が茹でエビとブロッコリーのバットを持ってきて、「追いエビ」をして、かき混ぜてくれた。

しょうゆが香ばしい~。
その焦げた部分を自分で確保して、まずは一口。やっぱり美味しい。
小さめ乱切りにした人参とかカボチャもホクホク、いったん茹でてから入れるの?
「ううん、玉ねぎとかと軽く炒めて、オイルコーティングしたぐらいで入れちゃうの」
ふうん、すごいなあ。

で、あたしが呼ばれた・・あ、呼ばれてはいない。人数合わせされたわけがわかった気がする。
大きなテーブルのあちらに一人がけ椅子が二脚。
こっちに、三人がけのベンチ。
五人が、ホームパーティに最適なのね。
パエリアもお米3合だそうだ。
それにルッコラやプチトマトのしらすサラダも出してくれたよ。

奥様は、せっかくのグランドピアノを弾いてないんだって。
ちゃんと音大のピアノ科を出て、フルートは副科だったそうだ。
「え、知らなかったぁ?」と仲良しツマに問いかける。
結婚するまでずっと実家にピアノは置いてあったのだけど、結婚してからずっとコントラバスさんに「持って行ってくれないかなー」とお父様から言われてたそうで。
フルートさんのご実家は、甲信越地方。
ピアノの輸送費が12万円、なんてコントラバスさんが口を挟む。
うん、そうだろうねえ。東京まで隣県からアップライトを運んだだけでもかなりしたもの。
12万なら安いかもしれない。でも、そんなことは言わない。

男性同士、床に座り込んでレコードや楽譜のコレクションに見入ってる。
お二人とも音楽の好みがかなり特殊で、この話ができる人は初めてだ、とか言って喜んでる。
ここもすごいけど、ファゴットの彼のコレクションも相当なものですよ。負けてないかも。

コントラバスさんはお酒は嗜まない。代わりに冷茶など召し上がってる。
きれいなグリーンのお茶を見て、あたしたちも冷茶をいただいた。
仲良しツマも、お酒は弱くて、お茶が異常に好きなの。
毎年夫婦で伊豆までお茶を買いに行くのだけど、行くと店の新人さんに他の店員が「こちらは大のお得意様でらっしゃる」と耳打ちし、店員全員が最敬礼で迎えてくれるそうだ。
いったい、いくらぐらいお茶を買ってるんだろうね。
あんまり浅ましいから、いくら仲良しとはいえそこまで聞けないよ。

なのにね。その地下室の中に、ワインセラーがあるのよ。
20本ぐらい入りそう。さすがに満杯にはなってないけど。
「そんなに高いものはないです、誰かが持ってきてくれたものとか」
あー。それなら、あたしもワインを持って行けばよかったかなあ。
ダンナ様が呑まない、という情報があったからやめちゃったんだ。

なのに、ファゴットダンナは日本酒の4合瓶を出してきた。
あ、あれ。その瓶をコンサート中も持ってたの。リュックに入れてあったんだな。
コントラバスさんも、なめる程度に。あとの4人で、美味しくいただいた。

最後に、「アイスとコーヒー持ってきて」とコントラバスさんがフルートさんに言いつける。
ガラスの器に盛り付けられたアイスをあたしが配ろうと手を出したら止められた。
「あ、ちょっと待って。仕上げにコレをかけるの」と、茶色の小瓶を見せられ。
あ。コアントローだ!へー。
アイスはどうみてもエッセルスーパーカップだと思う。でも、コアントローをかけるなんてお洒落ね。

でも、その効果はよくわからない。
考えながら味わってたら、コントラバスさんが「コアントローもっとかけないと足りないよ」と。
あら、コアントローなら多めに掛けても彼、大丈夫なのかしらね。

追いコアントローさせてもらったけど、小瓶がなくなりそうでちょっと遠慮しちゃった。

最後に、録画コレクションから見たいもの。と希望を聞かれ、タイトル一覧をスクリーンに出してくれる。
あっ、ユジャワンなんてある!大好きだ。一度でいいから、生で見てみたい。うん、聞くのもいいけど「見たい」。
3曲ぐらいあって、中であたしが知ってるのはプロコフィエフのコンチェルト第3番。
あんな難しい曲を、ほんとに楽しそうに弾くよね。指も見たいけど、顔も見たい。
フルート奥様にどっちがいいか聞いたら、「そりゃもちろん手が見たい」と。そうか。

で、そのスクリーンの右端に、ご夫婦の顔が見えたの。
最前列で、ちょうと手も顔も見える位置が偶然空いてたんだって。
映像だけじゃなく、大きな写真も撮ってあって、自分たちのところを白丸のペンで囲って飾ってあったよ。

よく、一番いい音はホールの真ん中ぐらいというけれど、最近はなるべくステージに近いほうが音の「圧」が感じられるから、そのほうが好きになった。と、コンバスさんはおっしゃる。
あたしも、全く同感だなあ。
映像を見終わったのに、話がなかなか終わらない。
やっとほんの少しのすき間に割って入って「もういい時間ですよ」とお開きにしてもらった。

いろいろ、眼福だ。お腹もいっぱい。
コンバスさんに駅まで送ってもらったけど、感無量すぎてろくに言葉も出なかった。

こんな生活をしている人が、こんな身近にいるなんてね。
あたしは、自分が望んでいる生活はできているから満足はしてるけど、なんつーか上のレベルを知らないから満足できているのかね。
夜中でも音が出せる環境は、うらやましい。今の自宅はその点、満足しているとは言えない。
その代わり、戸建て住宅のメンテナンスや駅まで少し遠いなどの不都合もあるよね。

本日のオマケ

こないだ牛丼を作ったとき、ちょっと食べきれなかったのね。残りに肉ときのこを足して、また牛丼。と計画したのに。

忘れてて、普通に調味料も入れて作っちゃった。盛り付けるとき「ハッ」と思い出し、残り物を鍋に足して煮直した。だから、ちょっと味が濃すぎたな。

ナスが1個だけ残ってたので、「焼きなすのごまだく」。ゴマ油で炒めて、酢醤油すりごまめんつゆしょうがすりおろしに漬け込む。緑が欲しかったから、極小ピーマンも追加。

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コメント

  1. じゅん より:

    グランドピアノをどうやって地下に降ろしたのかが気になります。
    ルービンシュタインは練習しないふりして、実は地下室があって、そこで練習してた、なんてことがどこかに書いてあったなあ。まあ、コンサートに向かう列車の中で初めて楽譜見て、それですぐに演奏できたって人らしいんで。

    そのご夫婦、DINKSってやつですかね。夫婦ともに高収入で、子どもにかかるお金を全部趣味に使うという。。。

    • よはねす よはねす より:

      はい、聞きましたよー。ピアノの脚を取って、クレーンで吊って、半地下の窓から入れたんですって。そのあと庭側に家が建ってしまったので、出すことはできないそうです。おーまいがー。

      ルービンシュタインのそれは初耳でした。練習しないでもボク弾けちゃうんだもんね、って見栄を張った?

      DINKS、だったのかもしれませんね。奥様はかつてピアノ教室を開いていたそうですが、もう弾けなくなったので教えられないそうです。ご主人も大企業は早期退職されたそうで、今はどのような働き方なのか、そこまで聞ける仲でもないのでね。

  2. うなゆき より:

    お〜 人から羨まれる生活!
    でも、実は私も然程羨ましくないの
    駅からドアまで
    敷地入り口からドアまでが
    無駄に広い、お金持ちの家を見て
    適正な広さ・適量の持ち物ってあるなぁ…
    と思います♪

    お金持ちの家は、偶に拝見するのが一番ですヨ

    • よはねす よはねす より:

      おお、実際に上から下までいろんなレベルのお宅訪問をされたうなゆきさんならではのご感想ですね!とても参考になります。

      こないだまで、トイレのフタが勝手に開いたり閉まったりするお宅で「ひえっ」と飛び退いたりして、仲良しツマと笑い合ってたのですが、このたびのお宅で二人ともやっと冷静に使うことができました。
      たまにはレベルの違うお宅の経験もするといいな、って思いましたよ。