オーケストラ仲間のお姉様が、お絵かき教室に通っているという。
その展覧会が、比較的うちの近所なので、「よかったら観に来て」とご案内をいただいた。
その会場「日展会館」は台東区上野桜木、鶯谷駅から徒歩5分だって。
それなら、頑張ればうちから歩いて行けるよ。
お姉様には日頃から大変お世話になっているし。
こういうとき、お菓子とかお花とか、お土産を持っていくべきなんだろうか。
会期は3日間、お姉様は会場にいらっしゃるかどうかもわからないしー、と言い訳をすぐに頭の中で思いつく。
時間もないしー。
Googleマップによればうちから片道徒歩35分。迷わなければそれぐらい余裕で歩けるはず。
でもねー、行って帰って来たらすぐ昼ご飯食べて、12時半の電車に乗って室内楽に行かなきゃなんないのよ。
展覧会にどれぐらい時間がかかるかわからないし、時間が無いからと言ってお姉様の絵だけしか見ないなんて勿体なさすぎ。
時間をお金で買おう。わー、かっこいー。
といってもJRは安いねー。片道、ICカードで146円だったよ。
上野桜木、鶯谷駅から行ったことあるよ。
有名なケーキ屋さんがあるんだけど、駅から少し離れたところの階段を上がる、これまた不思議な道順だったの。
おかげで今回は迷わず、ほんとに5分で着いた。
お客さんらしいおばあさんが二人、見終わって出てきたところだった。
あとは会場にいるのはおじさま一人、入り口の椅子に腰掛けてる。この人がきっと先生だろうな。
こんにちは。と言って入る。芳名帳がテーブルに載せてある。
迷ったけれど、あとでお姉様に「来たんだぞ」と証拠を残したかったから、書いた。
ちょっと見渡すと、絵に値札とか「売約済」の札とか、見当たらない。
ここは販売はしてないんですね?と確認しながらニヤッと笑ってしまった。
「してません。買わなきゃならないと、入りにくいですからね」
はい、入ったら買うまで出してくれないみたいなところもありますよねー。
「どなたのお知り合いですか」と聞かれ、ウッと詰まってしまった。
お姉様、一度苗字が変わられてね。何年経っても、古い方の名前が先に浮かんでしまって、今の名前がなかなか出てこないのよ。
ど忘れしてしまいまして、と目をパチパチさせてごまかしてたらやっと思い出した。
「ああ、それでは音楽関係の方ですか」と言ってくれた。
あっそうなんですー、こちらの方みなさんにチケットをずいぶん買っていただいたそうで、いつもありがとうございます。
お姉様、ときどき「余ってるチケットない?」と周りに聞いて、売ってくれるの。
もちろん、余らせてはもったいないだけなので喜んで差し上げたつもりなのに、お姉様の仲間はみなさんちゃんと代金をくださるんだって。
絵の先生「ああ、なかなか大変ですねえ」だって。
でも、お礼を言えてよかった。
四角い、見渡せる小部屋に、一辺10枚から15枚ずつぐらい、ずらっと展示してあるよ。
上手な人、そうでもない人、いろんな絵がある。水彩の透明絵の具が美しいなあ。
お姉さまの絵は、最後の方にあった。

あらっ。見覚えのある建物の絵。上野の旧奏楽堂だ。うれしいな。
お姉様は「アクリル画」だとおっしゃってたけど、こんな油絵みたいなタッチでも描けるんだね。へーっ。
先生がそばに寄ってきて、絵の具について説明してくれる。
「アクリルは水に溶かして使えて、乾いてしまえばとても丈夫で扱い易いです」とか。
先生は油絵をお描きになる。最後に小さい絵が2枚だけ展示してあった。
油絵は乾くまで時間がかかりますよねえ。
「1週間はかかりますね」
油絵はうちでも昔父が描いてたのですが、子どもにはあのにおいがきつかったのは覚えてますね。
あれから60年近く経ちましたが、普通にそのへんに飾っておいたらもうボロボロになってきまして。
「直射日光にはとても弱いです。モナリザなんかは500年経ってもまだ大丈夫ですが、名画は傷んでも修復してもらえますからねえ」なんて笑ってるよ。
また、気に入った絵のところまで戻って写真を撮った。

背景も、花瓶も、色が夢のようなグラデーションで美しい。
花は、白い絵具も塗ったのだろうか。ここだけ水彩じゃないのかなあ。
先生が寄ってきたので、聞いてみた。やはり水彩だそうで、「この人は上手ですよ」と。
この絵、好きです。買いたいぐらい。
「言ったら喜びますよ、伝えておきます」
あたしが小学生の頃の絵具ではこういうふうにならなかったです。
「ああ、小学生が使うのは不透明絵具、グワッシュっていうんですけど」
あ、そうなんだ。展覧会に行くと、よく画材が書き添えてあるけど、グワッシュの意味を知らなかったよ。
当時、いわさきちひろの絵など見て、どうしてこういうふうに描けないんだろうと思ってました。
「ああ、あの人の絵はほんっとに素晴らしいですね」と、感情を込めておっしゃる。
そりゃ、プロ中のプロですからねえ。
そうだ、今度いわさきちひろ美術館に行ってみよう。まだ一度も原画を見たことないんだ。
先生はふと、その隣の絵を示される。
「このタイトル、何て読むんでしょう」
えっと、「灯台つつじ」って読めますね。
筆ペンの手書きなので、ちょっとだけ崩してあるけど、あたしにはそう見える。
「そんな名前のつつじ、ありましたっけ」
うーん。スマホで検索してみた。
「灯台つつじ」と入力したら、結果は「ドウダンツツジ」しか出てこないよ。
先生、「あっそうか、ドウダンツツジでしたかー、そうかそうか」とうれしそう。
えー、ドウダンツツジって、もっとこう長く枝が伸びてるイメージだけど、この絵はまるでトピアリーのようにまあるく剪定されて(写真は撮らなかった)。
こんなドウダンツツジってあるの?
先生は「ドウダンツツジはこんな形ですよ」とおっしゃるので、へーそうなんだ、と思った。
喜んでくださって、よかった。
おかげで、とても楽しく過ごせたよ。
ごめん、きょうはオマケなし。ルーチンサラダの昼ご飯を食べて、夜はカロリーメイトしか食べなかったので。



コメント
へー,最後の絵とても綺麗だけど灯台躑躅って、白い壺型の花がぶら下がるようなやつかと思ってた。こういうのもあるのね。