特別編成オケ本番

おでかけ

日曜演奏会の話の続き

幸い、ホテルまで送迎してくれたコントラバスさんは駐車スペースを確保し、すぐ戻ってきてくれた。
お礼は頭を下げることだけしかできない。

弁当は積み上げてあるところから各自で取るようになっており、確保を頼んだ女子となかなか会えなくて申し訳なかった。
弁当の写真を撮るような雰囲気じゃない。
写真なくて残念だけど、肉魚卵ごはんスパゲティ煮物ぎっしり。
この大食い自慢のあたしが少し残してしまった。

これまでなら、多少無理と思っても残すことなんてできなかったのに。
そして多少食べ過ぎても体調に異変なんて起きたことなかった。

それが、自然に「もうだめ」って体の声が聞こえてくるようなトシになったんだねえ。

着替えて舞台袖で開演を待つ。
こんなへんぴなところ(周辺の方すみません)にお客さんが来てくれるのか不安だったけど、驚くほど客席が埋まっている。
オケは無名だけど、入場無料だし、なんたって指揮者秋山先生のネームバリューの力だろうなあ。

本番、始まった

まず、序曲「フィンガルの洞窟」。エンディングはピチカートをゆっくり三つ。
三回とも、鼻から息を吸ってみんなで息を合わせてぴったり同時に弦をはじく。
うまくいった。

2曲目はファゴット協奏曲。
ファゴットには憧れた。すっとぼけた音色が大好き。
まだピアノ以外の楽器を何もできなかったころ、吹奏楽部でファゴットがあれば入部したいと思ってたぐらい。
あのとき学校にファゴットがあったら、運命変わっていたかも。

その憧れの楽器を、目の前でそれはそれは美しく奏される。
自分が必死で練習しなくても、すばらしい低音があたしの体に直接響いてくるんだから。
まるで、夢が叶ったようだった。

ちなみに、ファゴットのための曲って有名な曲はないんだよね。
このモーツァルトのしか、知らない。
けど逆に、だからこの曲はよーく知ってたからうれしい。

休憩のあと、ナレーターさんが出てきて、ファゴット奏者と指揮者にインタビューがあった。
秋山先生に「音楽をする魅力はどんなところでしょう」なんて、陳腐な質問だと思ったら。
「オケの中には美しい女性がホラ、いっぱいいるでしょう。男性にとってはこれも喜びのひとつなんですよ」
なんて答えられて、笑ってしまった。

そしてメインの曲は交響組曲「シェヘラザード」。
4曲仕立てで、第1曲は「海とシンドバッドの船」
大波小波が荒れ狂う。あたしたちの体も荒れ狂う。

第2曲「カランダール王子の物語」
始まってまもなく、王子の身に何があったのか。
全員の音が止み(G.P、ゲネラルパウゼ)あたしのパートだけ丸裸で突然飛び出す。

ここは先生から何度もやり直しさせられた難所。
みんなの息は合ってるのに、あたしだけかすかにずれてしまった。かなりがっくり。

第3曲が一番有名な「若い王子と王女」、ロマンティックな曲だよ。
いつも感情を押し殺してるような女子が、抑え切れないように弾いてた表情が忘れられない。

どんなに心はがっくりしていても、美しい音楽は美しく弾かなきゃならない。
って、高校のとき後輩が言ってたなー。
あたしも2曲めの失敗を引きずっててはダメだ。

第4曲は題名が長すぎるので省略するよ。
最後に船が難破して、「物語はこれでおしまいです」的なメロディが、フィンガルの洞窟と同様にピチカート3つで終わる。

最後の最後、みんな緊張して、指揮棒が振られても音が出せない。
コンマスの弓をみんなで凝視して、それに全員ぴったり合わせられた。

(やった)と、心の中で叫びつつ、指揮棒が完全に下ろされるまで微動だにしない。
余韻をたっぷり味わって、全員が我に返る。
盛大な拍手が湧き、あちこちからブラボーも起こる。

秋山先生は、まず最初に管楽器の一人を指さして立たせた。誰だろう!
振り向いて、あたしも拍手を贈ったのは練習時に間違いが直せず10分以上も一人やり直しをさせられた女性。


うわ、ぼろぼろに泣いてる。あの練習時は泣かなかったのに。よく頑張ったね。
思わずあたしまでもらい泣きしそうになった。

最初の練習の録音を聞いたらひどいものだったけど。
よくここまでみんな練習した。

終演後

着替えて、帰りのバスを待つ間。
喉がカラカラ、自販機で飲み物を買ってたらその後ろが秋山先生の楽屋だった。

大勢、挨拶やサインをもらうため並んでる。
仲良くなった女子が、いつものようになにか申し訳なさそうな表情で立ってる。
やっと最後に彼女の番が来て、先生に差し出したのは黒いケース。白のサインペンも用意してたよ。

え、あの長さは、ひょっとして指揮棒!?
無事にサインをもらってきた彼女を捕まえて尋問した。
小学校の先生をしていたそうで、その時手に入れたと。
声が小さくて経緯はわからなかったけど、「実際に振ったわけじゃないんです」ってそればかり言ってた。

えー、よかったですねー。
仲良くしてくれてありがとう。またいつか、会えたらいいですね。
とお互い言って、やっと彼女は笑顔を見せてくれた。

駅までのバスはいろいろ出ていて。
これがいいや、と選んだ便の停留所に十数人並んだ。
少し前の方でしてる立ち話が聞こえたよ。
「楽器のケースだけ持って帰った人がいたんだって?」

あ。悪口にならないうちに申告しなきゃ。
はーい!それ、あたしでーす!!

「まあ、大丈夫でした?熱中症になっちゃったんですって?」
え。そんな尾ひれが付いてたんですね。噂って面白いですね。

その日は冷房が故障していたのか、確かにすごく暑い日ではあった。
熱中症のせいでぼうっとしてたのだろう、とかばうつもりでそんな話にしてくれたのかもね。

バカ話のついでだ。自分の話、もっとしていいですか。
今日、衣装をホテルに忘れてきちゃって、昼休みに取りに行ってきたんですよ。

アホすぎたらしい。あんまりウケなかった。

十数人乗れるか心配したバスは、余裕で乗れた。
しかし停留所に停まるたび、降りる人はなく、補助席まで使っても乗り切れない客に運転手さんが謝ってた。

山しか見えなかったのが、やっと平地で水田が広がるようになり、鉄塔と電線が見えたときはうれしかった。


目的駅について、仲間のなかであたしが一番最後に降りた。
夜7時。もう、仲間たちの姿は一人も見えず消えてしまった。

仲良したちで、打ち上げしてるのかもなー。
あたしはさらに1時間かけて我が家にたどり着いたよ。

あたしひとりの打ち上げ。いろんなことが、ありすぎた。

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コメント

  1. うなゆき より:

    そうなんだ
    拍手の時
    指揮者が演者を立たせる時
    何故この人が最初なの?と思う時があるのですが そういう事なのですね

    そして、よはねすさん
    さして親しくない人への自虐ネタはダメダメですよ 相手がお困りです
    おばさんは清く正しく小さくなって生きていかないと
    私の経験からかなり小さくしていても周囲の人には 態度デカイ と思われます


    今日帰ったらシェヘラザード聞いてみますネ

    • よはねす よはねす より:

      そうかーそこまで親しくない人は自虐聞いても笑うわけにいかないのですね。言われて初めてわかる、この情けなさ。よーく、覚えておきます。ありがとう。ほんとに。
      https://www.youtube.com/watch?v=I1qQm942l8U
      こちらが、あらすじと曲をリンクさせてくれてるので面白い、おすすめです。

      • うなゆき より:

        洗足学園
        聴きましたヨ

        シェヘラザード
        八丈島から帰って最初に行ったN響コンサート
        今調べると
        コンマスが篠崎さん
        バブルを引きづった気障なイメージの人

        そしてバレエのシェヘラザード
        マリンスキーの官能的なの
        YouTubeのお気に入りに入れてるのにすっかり忘れてました
        忘れてはいたけど、これってバレエ音楽とばかり思ってました
        因みに今のお気に入りはロミオとジュリエットの
        騎士の踊り
        バレエも好きだけど オケも好き❤️

        • よはねす より:

          なんと!もう聴いて下さったんですねありがとう。
          これを探す時、初めてこれがバレエに使われてると本日知った次第。N響演奏会なんて若い頃1回ぐらいしか行ったことないですよ。うなゆきさんあたしの何倍造詣が深いんですかー。ちなみにキザの篠崎さんはあたしと学年が一緒。銀座松屋デパートのBaccarat売り場でお買い物されてるのを目撃したことがあるのに演奏は聴いたことが無いという。

  2. にゃんた より:

    ファゴットってバズーカ砲みたいなでっかい楽器だっけ。クラリネットの大親分みたいな。
    フラッシュモブの動画で、いきなりでっかい楽器持ってきた人が出てきてそれは不自然だろーとおもったことがあります(^^;

    楽器忘れたの衣装忘れたのもみんなみんなこの暑さのせい。
    よはねすさんは何も悪くない。
    コンサート、大成功おめでとうございます。

    • よはねす よはねす より:

      そーそー、その木製バズーカ砲で合ってます。あの姿がまたかっこいい。
      顔の長い人が似合うと聞いたので、丸顔のあたしはそこでかなり萎えましたw
      モブですか。それはかなーり、無理がありましたね。
      はは、そんな優しいこと言われると真に受けちゃいますよ。でもうれしいです。ありがとう。