台風のきのう、音楽発表会だった。
3人でやる曲のメンバー一人が、不測の事態で静岡方面から帰れなくなったと夜中に連絡が入っていた。そして新幹線が「計画運休」となり、午後からしか運転しないとなり。
でも、できるだけ東京には向かうと言ってる。
リハーサルは絶望だけど、本番だけでも間に合えば。
少しでも可能性を高めるべく、プログラムを変更して出番を遅らせてもらった。
リハーサルは、とりあえずフルートとピアノの二人だけでやってみた。
バイオリンのパートが抜けると、フルートさんが途中からわからなくなって吹けなくなっちゃう。
ピアノの楽譜にはフルートバイオリンみんなのパートが印刷されているので、大事な箇所だけバイオリンパートをできるだけ弾いた。
聞いていた他の仲間が「万一バイオリンが来られなかったらこの二人だけで演奏してもいいんじゃない?」と言ったそうだ。
どうしよう。
急に、この場で「さあバイオリンパートも足して」と言われて、さっきは弾けても本番その通りに弾けるとは限らない。
リハーサルでは譜めくりも失敗して、楽譜が半分落っこちかけたんだ。
それを拾ってる間、フルートさんはちゃーんと待っててくれて、元通り演奏できたんだよ。
本番、どうする?この曲弾くのをやめる、って選択肢もあるからね。ってフルートさんは言ってくれた。
フルートさんは、完璧なんだよ。
あたしが途中でわからなくなると、曲全部が崩壊する危険がある。
でも、この曲あたしは猛練習した。
「弾きたい。これがなくなったら、あと合奏だけなんて嫌だ!」
「うん、それはそうだね。わかった。じゃあ、やろうね!」
バイオリンさんは、結局来られなかった。
タクシーも30分待ちだし、新幹線は動き始めたけどひどい行列でとても乗り込めない。
東京には夜に戻ることになると。
かわいそうに。
この曲、一番やりたかったのはバイオリンさんなんだよ。
演奏前に、マイクを持って曲紹介をするのも彼女がやるはずだった。
この曲を一緒にやることになった時フルートさんはとても喜んでくれて、「ずっとやりたくて、ついにやることができて幸せ」って言ってた。
だから曲紹介もお願いしたかったけど、彼女は彼女で他の曲紹介も役目がある。
あたし、マイク持つのすんごく苦手なんだよお。
いつも、マイク持たされるとぐるぐるもてあそんで「あ、えー、よろしくお願いします」ぐらいしか言えない。
フルートさんが「こういうこと言えば」って助けてくれた。
忘れないように頭の中で一人リハーサルした。
本番では、うまく言えた。たぶん60年近く生きてきて初めてちゃんと発言できたと思う。
「ヨハン・セバスチャン・バッハ作曲『音楽の捧げもの』という曲です。
大変長ーい曲で、今日はその中の『トリオ・ソナタ』を弾きます。
しかも本当は4楽章なんですがそのうち第1、第2楽章だけ弾きます。
トリオ、というのはフラウトトラヴェルソとバイオリンとチェンバロの3人なんですが
バイオリンが台風のせいで来られず、プログラム変更して待っていたのですが間に合わず、二人だけで演奏します。
お聞き苦しいかもしれませんが、聴いてください」
と頭を下げた。
やはり、バイオリンのメロディを入れたところは時々崩れた。
でも、フルートさんをよく聞けば、体勢を立てなおすことはできた。
自分としては、精一杯できて気持ちがよく、フルートさんにお礼を言った。この危機を乗り越えたなら、あとは何でもやれる気がします!
フルートさんはニッコリして「またやろうな!」って言ってくれたよ。
これは、男言葉なんじゃないんだ。
たまに関西のイントネーションが出る人だから、「やりましょうね」という意味の「やろな」なんだと思う。
わかっていながら、あたしはつい地が出てしまって男言葉の「やろうな!」で返した。
フルートさん、出番の前に手の指をしっかり組んで目を閉じて、一心に何かにお祈りしてたよ。
バイオリンさんのこと考えてたのかなあ。
そのとき、「(演奏前に)チューニングしますか」って聞いたら「そうねえ」って言われたのに、本番ではアナウンスですっかり舞い上がって、チューニングせずいきなり演奏を始めてしまった。
しかも思い出したのは夜、寝てから。
しかし、あんな嵐の中けっこうお客さんが来てくれた。
ほとんどは幹事さんが知り合いに宣伝して、最初から来るとわかっていた人。
集客力すごいなあ。
仲間だけしか聞いてくれなくても全く構わないと普段思っているんだけど、初めて聞いてくれた人からの拍手って、こんなにうれしいものなんだなあ。
コメント
よかったねー。やりたかった曲上手くできて。そしてよかったねー上手く話せて
今回の雨静岡がとんでもないことになってたんだってね。
同行の人が静岡で今朝知ったんだけどーって言ってました。
被害が甚大でないことをお祈りいたします。
なんと、静岡の方なのですね!佐渡へ行って難を逃れたか、その間に災害などなく過ぎていたら最高ですね。
タイミングが悪かったら佐渡にも行けませんでしたよねえ。ラッキーで終わること、わたしもお祈りいたします。