宴もたけなわの平日室内楽忘年会を一人こっそり抜けたのは、次ぎにチェンバロのおさらい会が控えているからである。
場所は、いつもと同じ教室。
あたしは普段、夜からなのだけど、この日は4時に来てくれと言われ。
3時からの生徒さん、4時からの生徒さんと3人まとめて発表とレッスンをする、という企画を先生が立てられた。
普段、自分一人が指導されているだけだとね、かなり自信喪失しちゃうことがあって。
先生が一生懸命言葉を選び、「このように」と手本も弾いてくださるけれど、その通りに出来るのはごくまれ。
たまに「できたぁ」と喜ぶことはあるのだけど、ほんとにその時だけの、まぐれ。
あんまりがっかりして先生から「どうしちゃったんですか、いつもはそんなじゃないのに」とまで言われたことがあるよ。
その時は「よはねすさん、うまいですよぉ」と言ってくださるけど、絶対単なるお世辞にしか聞こえない。
「ほかの生徒さんの演奏を聴けばわかると思いますが、鍵盤に慣れていない方や、80歳になる方もいらっしゃいますし」って言ってたなあ。
その時から、おさらい会の企画はスタートしていたんだ。
80歳。もしかして、吉永さんかしら。
前の先生の企画した発表会は原宿の小ホールで行われてね。
その打ち上げで、生徒さんの一人吉永さんがうちのご町内にお住まいとわかって、それから言葉を交わすようになったんだ。
でも先生が教室を辞められ、生徒さんはバラバラの時間帯に分散しちゃって、吉永さんとも会わなくなっちゃった。
おさらい会で、きっと吉永さんに会えるなと楽しみにしていたが、その人は吉永さんじゃなかった。
少しだけがっかりした。吉永さんはずいぶん長く習ってらしたけど、たしかにちょっとたどたどしかった。
でもこのK藤さんは、比較的簡単な曲ではあるけど、まるで先生が弾かれるようにちゃんとアーティキュレーション(音楽の呼吸みたいなもの)を品良く入れられ。
あたしも、こういう風に自然に弾きたいんだ!って思ったよ。
もう一人は60代ぐらいでとても長身のT石さん、ヘンデルの組曲をお上手に弾かれた。
中でも第2曲「サラバンド」は特に有名で、うれしいな。
あたしは2曲。先日先生がミニコンサートで弾いてくださった「涙のパヴァーヌ」と、大好きなラモーのガヴォット(と変奏)。かっこいいんだよ。上手く弾ければね。
あたしが中学生ぐらいの時、親が勤め先の人から楽譜を1冊借りてね、全部コピーしてくれた中に入ってた。
その時から、いつかこれをチェンバロで弾いてみたい、って思い続けてたんだよ。
50年も温めていた夢が今叶って、スピネットだけど自分ちに設置して。
弾いて、感動できたかというと、そりゃあもちろんうれしくて弾きだしたら止められないぐらいだけど。
ピアノで弾いてた弾き方なんて、思い出すと顔から火が出る。
初めてチェンバロ教室に入って、まず無料の「お試しレッスン」で「何か弾いてみて」と言われてこれを先生の前で弾いたんだよ。最初の方だけね。
先生、「ふむふむわかりました」とだけおっしゃったけど、チェンバロの「チ」も知らないな、ってすぐバレたことだ。
毎日毎日練習したけど、やっぱり人前で弾くと失敗の連続だねえ。
それでも、「これ、いい曲でしょっ」ってお二人にアピールできた気がしたのだけはうれしかった。
そして、自己紹介。
K藤さんはギターを弾いていて、最近チェンバロを始められたそうだ。
楽器はローランドの電子チェンバロ。もう製造中止になっちゃったやつね。
T石さんは、同じ教室でリコーダーも習っているそうだ。
あたしの弾いたラモーの曲もご存じで、でもピアノでの演奏しか聴いたことがなかったとのこと。
ピアノ用とチェンバロ用では、楽譜に違いはあるのか?という話で盛り上がった。
そして楽器はあたしと同じようなスピネットだけど、河合楽器製造の中古なんだって。
教室のチェンバロを弾くと、全然違うとおっしゃってる。
そうなのかー。教室のチェンバロは確かにレバーやリュートストップなど、音色の変化を付ける機構があって楽しいけど。
基本の音の違いは、あたしはそこまで感じないの。耳がいいんだろうなーT石さん。
で、自己紹介があたしの番になる前に話が盛り上がってしまって、自分の話はほとんどしないで済んじゃった。
でも、室内楽の帰りに寄ったので楽器を持ち込んでいたからね。
あたしが弦楽器もやるってことは、紹介するまでもなく自然に伝わって。
いつか、リコーダーやあたしの弦楽器も混ぜてアンサンブルできたらいいですね、と話が綺麗にまとまった。
T石さんたら、最後に先生に何か弾けっておねだりするんだ。
先生もちょっとびっくりして、「練習してませんが」といいながらバッハのリュート曲を弾いてくださった。
あたしも以前習った曲、とてもうれしい。
どんな人がチェンバロを習っているか、知ると面白いねえ。
ほんとに一人一人、全然違う経験をしてきて、なぜかここに一緒にいて同じ趣味を持っている。
T石さんは、最初別の教室で習い始めたのだけど、そこの先生のおっしゃることが全く通じなくて楽しくなかったんだって。
そこで諦めず、教室を変えてみるぐらい、やっぱりチェンバロに情熱を持ってたんだろうね。
確かに、習い事って先生との相性は大切と思う。
そしたら、先生の方も、生徒さんとの相性を感じるって。
「今日の三人はみんなセンスがあって」と言ってくださるが、あたしは自分ではそう思えなくて内心で首をひねってた。
教えたことが伝わらないと、先生の方も辛いんだってさ。
そうね。先生のおっしゃることは、理解はできてると思う。でも、その通りに自分の手に伝わらないんだよ。
ま、修行ですな。
三人の生徒は、おさらい会に自分の個人レッスンをつなげて時間を作ってきた。
お二人が帰ったあと30分ほど、あたしの個人レッスンをやったよ。
2曲とも、まだレッスンを続けましょうと言われ、もちろんありがたい。
これで終わりでは不完全燃焼だ。
そして、ハープ入りコンサートにも来てくれたの知らなかった、とお礼を言われた。
言ってくださったらよかったのにー、と言われたのだけど。
確かに、挨拶をせず帰ってしまったのは申しわけなかった。
でももしかして、あのチケットは自分で申し込まず、先生を通した方が先生の売り上げに貢献できたのかな。
と、実はあたしもちょっと気になってた。
先生は、そうはおっしゃらない。ただ先生を通すと割引額で買えるの、それは知ってたんだけどね。
どうなんだろうね。割引で買えるのはありがたいけど、団体としてはそうじゃないほうが利益率が良くなるでしょ。
そこまでは、聞けなかったなあ。
そして課題をもらっちゃった。
先日、松本迎賓館でクリスマス協奏曲の通奏低音を担当したの、どうでしたと聞かれ。
いやーせっかく通奏低音のチャンスだったけど、数字の付いていない、リアリゼーションした楽譜を渡されたので練習にならなかったの。
先生、「そんなことないはず」とおっしゃる。
きのう、よく探したらパート譜ではなくスコア譜で、数字付きのものがあったわ。
今度、それを見ながら弾く練習をレッスンで見ていただこう。
そうじゃないと、せっかく教えていただいたのに忘れちゃうし、上達しないもんね。
本日のオマケ


ワインのための糖質オフレシピ、元は鶏モモだけど厚揚げで作ってみた。バター、しょうゆ酒みりんと酢、塩こしょうとにんにく。
もうひとつは鶏レバーとプルーンのクリームチーズ和え。これも醤油とバター、にんにくでほとんど同じ味付けになっちゃった。元レシピはちゃんと生レバーを料理するんだけど、あたしは甘辛煮付けをスーパーで買って来ちゃったよ。

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