元総理が凶弾に倒れて以来、ニュースで新興宗教が取り上げられない日はない。
すっかり他人事として聞いていたが、思い出した。
そういえば若い頃あたしも、入ってしまったことがあったんだ。
二十歳ぐらいだった。学校に行ってたか就職後だったかも忘れてしまったけど。
高校一年のとき同級だった友人から、ある日突然電話が掛かってきたの。
「自分の運命を、変えてみたいと思わない?」
つねづね、自分の家系が男運が無いなと思っていたので、そんな怪しげな勧誘にすぐ乗ってしまった。
同級生も、明るくて人気者で級長だったから信用置けるし。
横浜市営地下鉄で行くところ。近くの人ならみんな知ってるんじゃない?
新興宗教だけどすでに大手になってて、教祖様が男女二人いてさ。
年寄りの方の教祖が死んだときちょっと週刊誌ネタにもなった。
友達もあたしも、かなり遠い道のりを行ったんだよねえ。
たしか、入会費3万円ほど払ったんじゃなかったかな。
胸に小さいブローチをつけて、朝夕6時に決まったお祈りをする。
それだけで願いがかなうって。
いや、もっと決まりがあったかもしれないけど何も覚えてない。
2回目に行ったときは、友人は先輩信者を一人あたしに紹介した。
先輩は三十代ぐらいの女性で、しっかり目を合わせてくれるんだけど、、目力少し強すぎ。
それ以来、宗教にはまり込んでる人って目つきでわかるようになってしまった。
その先輩が自己紹介するには、実は結婚している人とお付き合いしてるんだって。
彼女の願いは、彼が離婚して、自分と結婚してくれること。
ここで、あたしは「この宗教おかしい」と気づいた。
信者の中には、夫が浮気しているが戻ってくれることを願っている人もいるだろう。
妻と、浮気相手と、両方ここの信者だったら神はどっちの願いを聞いてくれるんだ。
それでも、友人のことを信用する気持ちはまだ消せなかった。
3回目、一緒に行こうと友人に電話した。
だけど、彼女は体調がすぐれないから、悪いけど一人で行ってくれる?と断った。
今だから、あたしもバカだなと思うけど、当時は友達との約束だからって、ほんとに一人で行ってきた。
でも、教祖様のお説教を聞いてもなにも感心することがなく。
年下教祖が、「年上教祖の命が長くない、もしもの時が訪れたら恐ろしい」と嘆いてるだけ。
あほくさ。それっきり、行かなかった。
教会からも友人からも「なぜ来ないのか、行かないのか」と責められると思ってたけど何事もなかったよ。
母はね。
あたしのこと、若気の至りだろうと、何も言わず見守ってくれてたよ。
2回目か3回めに行ってきたとき「そろそろわかった?」て聞いただけ。
「まだ、ちょっとわかんない」と返事したら、お金を取るのかと聞いてきた。
3万出した、と言ったら「お金を取るのはみんな間違った宗教だ」とひとこと。
それで、あたしもはっきり洗脳が解けた。
数年後、高校の仲間たちと集まる機会があったので、その同級生の消息をたずねてみた。
「変な宗教にはまって精神を病んでしまって、ひきこもりらしい」という噂を知っている人がいた。
そこ、一緒にあたしも行ったのよ、ってなぜ言えなかったのかなあ。
人の不幸話を広げちゃいけないって雰囲気だったし、やっぱりあたしも恥ずかしい話でもあるし。
若いって、判断力がない。
おかしい、と本能的に思っても、断り方を知らない。
あたしは、こういう小さい失敗をいろいろしながら、やっと下手くそながら断れるような大人になれた。
18歳から成人扱いって、少し不安だ。
でも、きっとみんなたくさん失敗を積み重ねて、だんだん失敗しないで立ち回れるようになれるんだと思うよ。
コメント
おお、大胆な告白。
ぼくは、宗教だめだ。自分に干渉してくるものはみんな嫌い。
ネタにしか使わない。
学生の頃から「あなたは神を信じますか?」に対しては、テスト前だけ。
オランダで同じこと聞かれた時はわたしは仏陀を信じてますって言って合掌。
舐めてます。
お母さん素晴らしいひとだね。
自分で気がつくの待っててくれたんだね。そんな人がそばにいてくれたら落っこちても大丈夫なのにね。
ふふふ。いろんな悩みを抱えてる人が、弱みにつけ込まれて巻き込まれやすいんでしょうね。
にゃんたさんは若いうちから強い人だったのでは。
外国ではブディストで通すのが無難とは聞いたことがあります。舐めてるんじゃなく、立派な処世術だと思います。たぶん、日本国内でもある程度はそうだろうな。