ケーキが食べたかっただけ

オケ仲間が忙しすぎて弓のメンテナンスに行けず、無残な状態になっていたのを預かってきた。

彼もあたしも、行きつけの楽器店は同じ店。うちから15分も歩けば着いちゃうところ。
ついでにあたしの弓も同時にやってもらう、いいチャンスだ。

弓の毛には松やにを塗って、ベトベトというかザラザラというかベトザラの状態にして、弦に引っかかるようにするのね。
普通は半年に一度ぐらい毛を交換するらしいけど、あたしはその劣化が自分ではわからない。
何年使っても、別に引っかかりが悪くなったとは感じないの。

でも、仲間にもプロの人が少しはいて。
せめて年一度、夏が終わったら替えるべきと教えてくれた。
なぜなら、松脂が夏の暑さで溶けて毛にくっついてしまい、秋に冷えたら固まっちゃうんだって。

きっと、変に固まった弓で弾き続けていたんだろう。けど、実は毛替えをしても違いはわからない。

コーヒーに入れるクリープがマリームとかブライトになったら、その違いはわかるんだが。

関係なくてごめん。これが面白くない人は50代以下だね。

強引に、仲間から預かってきた弓はとても持ちやすい。あたしのよりだいぶ軽い気がする。
試しに弾きたかったんだけど、あまりにも毛が少なくなりすぎてて、弾くのが怖くて試せなかった。
お仲間、よくこんなので思い切り弾いてたよなあ。
楽器本体に傷がつきそうだからって、手元にテープを巻いて緩衝材としている。

楽器屋に2本の弓を持ち込んで、1本は翌日引き取り、1本は3時間後の引き取りとした。
ここ、すぐやってくれるからありがたいんだよね。
よくあるチェーン店だと1週間ぐらい預けなきゃいけないの。職人さんが週一度しか来ない、とかで。

さて。あたしは当日受け取りなんだけど、時間をつぶさなきゃ。
あたしのチェンバロ教室は、この楽器屋さんとウチとの間ぐらい。
たまたま、先生が以前体調不良でお休みをされた時の振替レッスンが、偶然この日この時間になったの。

レッスンまで時間をつぶして、レッスン後に弓を受け取りに行くとちょうどいい。
以前から狙っていたケーキ屋さん、今こそチャンス、ちょうどいいな。
時計を見たら、いったん家に帰っても余裕ある時間なんだけどね。えへへ。

行きたかったのは、神田淡路町の「近江屋洋菓子店」。
有名店だけど、入るのは20年ぶりぐらいかな。
アルコールで手を消毒して、さてどの席に座ろうかと見まわしたら。
あれ。ソファが一番奥に少しあるけどなんだか暗がりだよ。

小さい掲示板が立っていた。
イートインは、令和2年から中止してるんだって。
がーーん。

そろそろ、いいじゃないのぉ。食べたかったよぉ。
店に入るときにね、立て続けに3人も同時に店に入ったんだ。
あきらめて外に出たんだけど、やっぱりお客が引きも切らず続々と入っていくよ。

みんな、買って帰って、おうちで食べるのね。いいなあ。
横目で睨みながら急いで考える。
あっちにも、入りたかったカフェがあった。

店の外の看板写真は、色とりどりのケーキがどっさり。
でも季節によって種類は違うんだって。
ここも何年も前から通りがかるたびに気になってたけど、入るのは初めて。

案の定、期待していた写真の抹茶あずきロールケーキはショーケースになかった。
代わりは、アップルパイだ。
近江屋洋菓子店も、アップルパイが名物だよね。
今日のところは、ここのアップルパイで勘弁してあげるわ。

今まで、スイーツを食べるときの飲み物は甘くないもの、と自己規制していたの。
でも、ドリンクメニューに久しぶりにフローズン類がいろいろあって、うれしくなっちゃった。
中でもカロリーが低そうな「フローズンコーヒー」のＭサイズにしたよ。
Ｓサイズじゃ、すぐ飲み終わっちゃって時間つぶせないし。

大きくてごめん。なぜかこないだから、ケーキ写真だけサイズ変更にとてつもなく時間がかかる。今日はサイズ変更あきらめた。

ちょうど1時間、崩れるアップルパイと格闘し、持ち込んだ本を読みながらストロー噛んでやっとレッスンの時間になった。
あ、弓の持ち主に預かり証を写メで送ることもできたわ。
なんて便利な時代になったんだ。

毎回ね、レッスン室に入ると汗がなかなか止まらないの。歩いて行くから。
きのうはフローズンコーヒーのおかげで寒くなってよかった、と思ったらやっぱりレッスンしてたら汗かいちゃった。
でも最後に先生に「あー楽しかった」と言って退室したよ。

そこから楽器店に行ったら、受け取れる時間ぴったりだった。
時間配分大成功。
自分の分だけ代金を支払って受け取る。
もう1本は、翌日仲間が仕事帰りに寄って、支払いと受け取りという算段が整った。

すべて、ケーキを食べるために事がうまく運んだような気がする。